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「決算書を見ても、どこを見ればいいのか分からない」「資金繰りが不安だけど、何を勉強すればいいのか分からない」――起業して数字と向き合うようになった経営者の方から、こうした声を本当によくいただきます。私自身、中小企業診断士として多くの創業期の経営者を支援してきましたが、廃業に追い込まれる会社の多くは「商品が悪かった」のではなく「お金の管理でつまずいた」ケースが大半です。黒字なのに資金がショートする、いわゆる「黒字倒産」も珍しくありません。
この記事では、合同会社白眉コンサルティング代表で中小企業診断士・応用情報技術者の堀 寿弘が、起業家・経営者が読むべき「お金・会計」の本を10冊厳選してご紹介します。「会計の基礎」「お金・ファイナンス」「資金繰り・財務戦略」の3分野に分け、それぞれどんな人におすすめかと学べる内容を整理しました。数字が苦手な方でも読み進められる本を中心に選んでいますので、ご自身の課題に合わせて選んでみてください。記事の後半では、まず読むべき3冊とおすすめの順番、そして学んだ知識を実務に落とし込む方法もまとめています。
なお、起業全般のおすすめ本(マインド・経営戦略・思考法など)は別記事「起業家おすすめ本20選」で、マーケティング・営業に特化した選書は「マーケティング・営業を学ぶおすすめ本10選」で扱っています。本記事は「お金・会計」に特化した内容ですので、合わせて読んでいただくと知識の死角が少なくなるはずです。
なぜ起業家はお金・会計を学ぶべきか
創業期の経営者を支援していて痛感するのは、「お金・会計の知識は、攻めではなく守りの領域」だということです。マーケティングや営業が「売上を増やす力」だとすれば、会計・財務は「会社を潰さない力」です。どれだけ売上を立てても、手元の現金が尽きれば会社は止まります。会計を学ぶことは、その最悪の事態を避けるための保険のようなものなのです。
中小企業診断士の試験でも、「財務・会計」は最重要科目のひとつに位置づけられています。損益計算書(P/L)・貸借対照表(B/S)・キャッシュフロー計算書(C/S)という「財務3表」の読み方、損益分岐点、キャッシュフローの考え方――こうした基礎を押さえているかどうかで、経営判断の精度はまったく変わります。たとえば「値引きしてでも売るべきか」「この設備投資は妥当か」といった日々の判断は、すべて数字の裏付けがあって初めて適切に下せるものです。
そして、お金・会計は社長自身が理解しておくべき領域でもあります。税理士に記帳を任せること自体は問題ありませんが、出てきた数字の意味を社長が読めなければ、経営の舵取りは他人任せになってしまいます。幸い、会計の基本は1冊2,000円前後の良書で輪郭がつかめます。独学で何年もかかる感覚を、数日で手に入れられる――これほど費用対効果の高い投資はありません。以下では、私が現場で実際にお客様へ紹介している10冊を、3つのカテゴリーに分けてご紹介します。
会計の基礎を学ぶ本4選
まずは「会計とは何か」「決算書はどう読むのか」という土台づくりです。簿記の細かい仕訳から入る必要はありません。経営者にとって大事なのは「数字が何を語っているか」を読み取る力です。ここでは、数字アレルギーのある方でも楽しく読める入門書を4冊選びました。
1. 会計の世界史(田中靖浩)
会計を「歴史の物語」として学べる、異色の入門書です。簿記がどう生まれ、株式会社や決算書がなぜ必要とされたのか――イタリアの商人、オランダの東インド会社、アメリカの鉄道会社といった世界史のエピソードを通じて、会計の本質が自然と理解できる構成になっています。
学べる内容:簿記・財務諸表・ファイナンスがなぜこの形になったのか、その背景と必然性。どんな人におすすめか:「会計=退屈な暗記」というイメージで苦手意識がある方、数字の前にまず全体像をつかみたい方。読み物として面白く、会計の世界に入る最初の一冊として個人的にはとてもおすすめです。
2. さおだけ屋はなぜ潰れないのか?(山田真哉)
「身近な疑問から会計を学ぶ」というコンセプトで大ヒットした、会計入門の定番書です。「なぜ高級フレンチは儲かるのか」「在庫はなぜ少ないほうがいいのか」といった日常のナゾを、会計の視点で解き明かしていきます。
学べる内容:利益の構造、回転率、機会損失、キャッシュの大切さなど、経営に直結する会計のエッセンス。どんな人におすすめか:会計書を1冊も読んだことがない方、難しい本で挫折した経験がある方。専門用語をほとんど使わずに「会計的なものの見方」が身につくので、入門の入門として最適です。1〜2時間で読み切れる手軽さも魅力です。
3. 財務3表一体理解法(國貞克則)
損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書という「財務3表」が、どうつながっているのかを徹底的に解説した一冊です。多くの人がバラバラに理解しがちな3つの表を、「お金の流れ」として一体でとらえる視点を与えてくれます。
学べる内容:財務3表の構造とつながり、取引が各表にどう反映されるかの一連の流れ。どんな人におすすめか:決算書を一枚ずつは見られるが、全体像がつかめていない方、簿記の知識を経営判断に結びつけたい方。私が「決算書をちゃんと読めるようになりたい」という経営者に紹介することの多い実用書で、ここを越えると財務の世界が一気に開けます。
4. 経営者になるためのノート(柳井正)
ユニクロを率いるファーストリテイリング会長・柳井正氏が、社員教育のために書いた経営者育成ノートです。純粋な会計書ではありませんが、「儲ける」とはどういうことか、利益をどう生み出すかという、経営者としてのお金の哲学が詰まっています。
学べる内容:利益・コスト・投資に対する経営者の心構え、数字を経営に結びつける思考。どんな人におすすめか:会計の技術的な話だけでなく、「そもそも何のために利益を出すのか」という土台を固めたい方。書き込み式のノート形式になっており、自分の事業に当てはめて考えられる構成です。会計の本だけでは得られない「経営者目線」を補ってくれる一冊として推薦します。
お金・ファイナンスを学ぶ本3選
会計が「過去の数字を正しく読む」スキルだとすれば、ファイナンスは「お金そのものとどう付き合うか」という、より広いお金の知識です。個人の家計から事業のキャッシュ管理まで、経営者として知っておきたいお金の感覚を養う3冊を選びました。
5. 本当の自由を手に入れる お金の大学(両@リベ大学長)
お金にまつわる力を「貯める・稼ぐ・増やす・守る・使う」の5つに整理した、お金のリテラシー入門書です。事業会計の専門書ではありませんが、個人のお金の土台を固める内容として、創業前の方にぜひ読んでおいてほしい一冊です。
学べる内容:固定費の見直し、税金・社会保険の基礎、資産形成の考え方など、お金全般の基礎知識。どんな人におすすめか:会社員から独立を考えている方、まず自分の家計から整えたい方。図解が豊富で、お金の話が苦手な方でもサクサク読めます。事業を始める前に「自分のお金の体力」を整えておくと、創業後の精神的な余裕がまったく違ってきます。個人的には、起業を決める前の段階で読んでおくと良い本だと思います。
6. キャッシュ・フロー経営入門
「利益が出ているのにお金が足りない」――この黒字倒産のメカニズムを理解するうえで、キャッシュフローの知識は欠かせません。本書は、利益とキャッシュは別物であるという大原則から、現金の流れをどう管理するかまでを、入門者向けにかみ砕いて解説しています。
学べる内容:利益とキャッシュの違い、運転資金の考え方、キャッシュフロー計算書の読み方と活かし方。どんな人におすすめか:売上は伸びているのに手元資金が増えない理由を知りたい方、資金繰りに漠然とした不安がある方。会計の中でも特に「現金」にフォーカスした分野で、私が支援の現場で最も重視している領域でもあります。財務3表の理解を終えた次のステップとして読むと、知識が立体的になります。
7. 稲盛和夫の実学(稲盛和夫)
京セラ創業者・稲盛和夫氏による、経営者のための会計入門の名著です。「会計がわからずして真の経営はできない」という強いメッセージのもと、キャッシュベースの経営、採算管理、一対一対応の原則といった実践的な会計哲学が語られています。
学べる内容:経営者が会計をどう使うべきか、現金主義の考え方、ガラス張り経営による採算管理。どんな人におすすめか:簿記の知識はあるが、経営判断にどう活かせばいいか分からない方、数字に強い経営者を目指す方。専門用語を最小限に抑え、徹底して経営者の視点で書かれているため、会計学の教科書よりずっと頭に入ります。私が起業家に「経営者として読むべき会計書」を一冊挙げるなら、迷わずこの本を推薦します。
資金繰り・財務戦略を学ぶ本3選
基礎を身につけたら、次は「自社のお金をどう守り、どう使うか」という実務・戦略の段階です。日々の経理から、会社を大きくしすぎないという財務の哲学まで、創業後に効いてくる3冊をご紹介します。
8. 小さな会社の経理・財務がぜんぶわかる本
一人社長や小規模法人にとって、経理・財務は「やらなければならないが、よく分からない」代表格です。本書は、日々の記帳から決算、資金繰り、税金まで、小さな会社に必要な経理・財務の実務をひととおり網羅した実用書です。
学べる内容:記帳・経費精算・決算の流れ、資金繰り表の作り方、税金スケジュールなど実務の全体像。どんな人におすすめか:経理を自分でやらざるを得ない一人社長・個人事業主、税理士に頼む前に自社の数字を把握したい方。手元に置いて辞書的に使えるのが強みで、「この処理はどうすれば」と迷ったときに開ける安心感があります。理論書というより、創業期の実務マニュアルとして役立つ一冊です。
9. 社長は会社を「大きく」するな!
「会社は大きくするほど良い」という常識に一石を投じる、財務戦略の本です。規模拡大に伴う固定費・借入のリスクを指摘し、「小さくても強く、潰れない会社」をつくるための財務の考え方を説いています。
学べる内容:規模拡大のリスク、適正規模の見極め方、借入や固定費とのバランスのとり方。どんな人におすすめか:成長を焦って規模を追いがちな方、無理な拡大で資金繰りを悪化させたくない方。私が大分で支援している小規模事業者の多くは、急成長より「持続的に潰れない経営」を志向しており、その意味で実感を持って勧められる一冊です。創業期から「大きくしすぎない」という選択肢を知っておくことは、後の財務判断に効いてきます。
10. 「数字に強い」会社の作り方
経営者だけでなく、社員一人ひとりが数字で考えられる組織――いわゆる「数字に強い会社」をどうつくるかをテーマにした本です。会計の知識を、個人のスキルから組織の文化へと広げる視点を与えてくれます。
学べる内容:数字で意思決定する習慣、部門別・現場レベルでの数字管理、会計知識の組織への浸透。どんな人におすすめか:今後人を雇う予定がある方、自分だけでなくチームで数字を見る体制をつくりたい方。創業直後はピンとこないかもしれませんが、組織が大きくなる前にこの発想を持っておくと、人材戦略や権限委譲がスムーズになります。会計を「個人の教養」から「経営の武器」へと昇華させたい段階で読むと効果的です。
まず読むべき3冊:おすすめの順番
10冊すべてを一度に読む必要はありません。むしろ、起業準備中・創業1年目の方であれば、まず以下の3冊を順番に読むのが現実的だと考えています。会計が苦手な方でも、この順番なら無理なくステップアップできます。
1冊目:『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(会計アレルギーの解消)
いきなり決算書に挑むと挫折します。まずは身近な疑問を通じて「会計的なものの見方」に慣れることが大切です。1〜2時間で読み切れて、「会計って意外と面白い」と思えれば最初の一歩は成功です。
2冊目:『財務3表一体理解法』(決算書を読む土台)
次に、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書のつながりを理解します。ここを越えると、自社の決算書が「ただの数字の羅列」から「経営の状態を語るストーリー」に見えてきます。会計の基礎を固める、いわば本丸の一冊です。
3冊目:『稲盛和夫の実学』(経営に活かす視点)
最後に、学んだ会計知識を「経営判断にどう使うか」という視点を加えます。技術としての会計を、経営者の武器に変えてくれる本です。この3冊を読み終える頃には、決算書を前にしても臆さず、自分の言葉で数字を語れるようになっているはずです。
この段階を越えたら、ご自身の課題に応じて広げていきましょう。「現金の流れが不安」なら『キャッシュ・フロー経営入門』、「自分で経理をやりたい」なら『小さな会社の経理・財務がぜんぶわかる本』、「拡大の判断に迷う」なら『社長は会社を「大きく」するな!』へと進むのがおすすめです。
本で学んだ会計知識を実務に活かすには
会計の本を読んでも、それだけで会社の数字が良くなるわけではありません。大切なのは、学んだ知識を日々の数字管理に落とし込むことです。私が支援先に必ずお伝えしているのは、「まず自社の数字を、毎月見る習慣をつけましょう」ということです。
そのうえで強くおすすめしたいのが、クラウド会計ソフトの活用です。本で財務3表やキャッシュフローの考え方を学んでも、手作業で集計していては毎月の数字をタイムリーに把握できません。freeeやマネーフォワード クラウドといったクラウド会計ソフトを使えば、銀行口座やクレジットカードと連携して取引が自動で記帳され、損益計算書やキャッシュフローがリアルタイムで確認できます。本で学んだ「読み方」と、ソフトが出してくれる「最新の数字」が組み合わさって、初めて会計が経営の武器になります。具体的なソフトの比較は、別記事「クラウド会計ソフトの比較記事」でも詳しく扱っていますので、合わせてご覧ください。
「読んで→実務で数字を見て→判断に活かす」――このサイクルを回すことで、読書への投資は何倍にもなって返ってきます。月に一度、自社の決算書とにらめっこする30分が、5年後の経営の安定につながると考えてください。
まとめ
中小企業診断士の視点から、起業家・経営者が読むべき「お金・会計」の本を10冊ご紹介しました。会計の基礎・ファイナンス・資金繰り戦略はどれも欠かせませんが、いきなり全部に手を広げると消化不良になります。まずは『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『財務3表一体理解法』『稲盛和夫の実学』の3冊から始め、ご自身の課題に合わせて広げていくのが現実的でしょう。
お金・会計の知識は、派手さはありませんが、会社を長く続けるための土台です。そして本で学んだ知識は、クラウド会計ソフトなどのツールで日々の数字に向き合うことで、初めて本当の力になります。今回ご紹介した本は、いずれも私が大分での創業支援の現場で実際にお客様へ紹介している実用書ばかりです。数字への苦手意識を手放す第一歩として、ぜひ気になった1冊から手に取ってみてください。
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